大寶寺は、愛媛県上浮穴郡久万高原町に位置する真言宗豊山派の寺院です。四国八十八箇所霊場の第四十四番札所であり、「中札所」として知られています。菅生山（すごうざん）、大覚院（だいかくいん）と号し、本尊は十一面観世音菩薩です。標高約560メートルに位置し、八十八箇所中で5番目に高い場所にある寺院です。
本尊は十一面観世音菩薩で、真言は「おん まか きゃろにきゃ そわか」と唱えられます。ご詠歌は「今の世は大悲（だいひ）のめぐみ菅生山 ついには弥陀の誓いをぞまつ」であり、観音菩薩の慈悲の力を感じさせる言葉が表現されています。
大寶寺の起源は、寺伝によれば百済から来た聖僧が十一面観世音菩薩を携えて山中に安置したことに始まります。大宝元年（701年）に、安芸から来た明神右京、隼人の兄弟の猟師がこの観音像を見つけ、草庵を建てて祀ったといわれています。その後、文武天皇の勅命により寺院が建立され、元号に合わせて寺号が「大寶寺」と定められました。
弘仁13年（822年）には、空海（弘法大師）がこの地を訪れました。この際、寺は天台宗から真言宗に改宗されました。空海の訪問により、大寶寺はさらに信仰の場としての重要性を増していきました。
仁平2年（1152年）には、失火によって寺は焼失しましたが、保元元年（1156年）には後白河天皇の勅使が寺院の再建を祈願し、天皇の病気平癒を祈ったところ病が治ったため、寺は勅願寺として再建されました。その後、天正年間（1573年 - 1592年）には長宗我部元親の兵火により再び焼失しましたが、元禄年間（1688年 - 1704年）には伊予松山藩主加藤嘉明らの支援により再建されました。明治7年（1874年）には三度目の火災で全焼しましたが、地元の人々の尽力により再興されました。
総門をくぐり、町中から進むと左手に塔頭跡の境外駐車場が見えます。赤い欄干の勅使橋を渡り、山中へ進むと仁王門があります。この仁王門は入母屋造りの楼門で、右側の基礎部分には石製の蛇・蛙・ナメクジの三すくみが彫られています。
現在の本堂は1925年に再建されたものです。本堂の右側にはブロンズの十一面観音立像が立ち、そのさらに右手には総檜造りの大師堂があります。この大師堂は1984年に再建されたもので、空海（弘法大師）を祀っています。
掘出観音堂は、昭和9年に当地の大木の根元から法華経一字一石約130枚の石に覆われた中から掘り出された平安時代後期～鎌倉初期作の観音像を祀っています。ここには8体の小像が祀られており、訪れる人々の信仰を集めています。
境内には、芭蕉の50周忌を記念して建てられた芭蕉塚（霜夜塚）があります。この塚には「薬のむさらでも霜の枕かな」と刻まれており、松山の俳人志山の発願によって建立されました。また、句碑としては山頭火の「朝まゐりはわたくし一人の銀杏ちりしく」などがあり、訪れる人々に深い感銘を与えています。
大寶寺には宿坊があり、定員は150名です。宿泊を希望される方は事前の予約が必要です。また、駐車場については境外駐車場が普通車20台、大型車3台が停められ、境内駐車場には普通車10台分のスペースがあります。いずれも無料で利用可能です。
大寶寺周辺には「伊予遍路道」があり、その中でも大寶寺道や岩屋寺道が国の史跡として指定されています。特に、大寶寺道は明石寺から当寺に至る約61.9 kmの遍路道の中で、山門前の勅使橋から当寺納経所までの約185 mが含まれています。
大寶寺には、昭和39年3月27日に指定された鉄製の燈明台「三十三燈台」や、昭和43年3月8日に指定された「菅生山」があります。また、久万高原町指定の有形文化財としては、金剛力士像や三十番神像、掘り出し観音像などがあり、これらの文化財は寺の歴史や信仰の深さを物語っています。
境内にはヒノキや大杉、カエデの群生といった自然の豊かさも感じられます。訪れる人々は、四季折々の美しい風景を楽しむことができ、心の安らぎを得ることができるでしょう。
大寶寺へは、四国旅客鉄道（JR四国）予讃線の松山駅からアクセス可能です。松山駅からは、ジェイアール四国バスの久万高原線に乗り、「久万中学校前」で下車すると、そこから1.2 kmの距離にあります。
車でのアクセスは、国道33号を利用し久万高原町まで進みます。駐車場は境内、境外の両方にありますので、車で訪れる方も安心して参拝できます。
於久万大師堂は、大寶寺の境外仏堂であり、本尊は弘法大師です。平安時代初期、空海がこの地を巡錫中に山中で休もうと訪れた民家に住む「くま」という名の老女（または娘）から手厚くもてなされ、空海は感銘を受けました。後に空海は、この地が栄えるようにと願いを込め、大師堂が築かれました。このエピソードから、久万高原町の地名は「くま」に由来すると伝えられています。