砥部焼伝統産業会館は、愛媛県伊予郡砥部町に位置する博物館で、地域の伝統工芸である砥部焼の魅力を伝える施設です。この博物館では、砥部焼の歴史や制作過程を学べるだけでなく、実際に砥部焼の美しい作品を鑑賞することができます。
砥部焼伝統産業会館は、1976年に国の伝統工芸品に指定されたことを契機として、砥部町の事業整備の一環として建設され、1989年4月に開館しました。館内には砥部焼に関する貴重な歴史的資料や作品が展示されており、砥部焼の伝統と技術を身近に感じることができます。
1階には、砥部焼の歴史を紹介する常設展示室があり、古代から現代に至るまでの砥部焼の変遷を知ることができます。展示品には、江戸時代後期から明治期にかけて作られた貴重な作品や、現在の砥部焼作家の作品などがあり、訪れる人々を魅了しています。
2階には、砥部焼の新作を紹介する見本市や個展などを開催する企画展示室があります。また、窯元紹介コーナーでは、砥部町の各窯元についての紹介が行われており、訪問者は実際にどのような作家がどのような作品を手掛けているのかを知ることができます。
砥部焼伝統産業会館では、年間を通じて様々なイベントが開催され、砥部焼の魅力をより深く知ることができます。特に以下のイベントは毎年多くの観光客で賑わいます。
砥部焼伝統産業会館へのアクセスは、公共交通機関を利用するのが便利です。伊予鉄道の松山市駅またはいよ立花駅から伊予鉄バスに乗車し、『砥部断層口・砥部大岩橋』行きのバスで砥部焼伝統産業会館前で下車します。松山市駅からの所要時間は約45分、バス停からは徒歩3分の距離です。バスは日中30分おきに運行しており、非常にアクセスしやすい立地となっています。
砥部焼(とべやき)は、愛媛県砥部町を中心に作られる陶磁器で、主に食器や花器などの日用品として広く愛用されています。その特徴は、やや厚手の白磁に描かれる手書きの藍色の図案と、頑丈で割れにくい性質です。これらの特性から、砥部焼は愛媛県指定無形文化財にも指定されており、長い歴史と伝統を誇ります。
砥部焼の歴史は江戸時代後期にさかのぼります。砥部町周辺の山地からは良質の陶石が産出されており、この資源を活かして大洲藩の庇護のもとで砥部焼は発展を遂げました。当時の大洲藩は、藩の財政を立て直すために砥石くずを利用した磁器づくりを推奨し、これが砥部焼の始まりとされています。
砥部焼の創始者とされる杉野丈助(すぎの じょうすけ)は、砥部の五本松という場所に登り窯を築き、数々の試行錯誤の末、1777年(安永6年)に白地に藍色の焼き物作りに成功しました。焼き物に必要な薪は近くの山々で豊富に採取でき、また砥石を砕いて陶土にするための水車を設置するのに適した渓流や小川があることから、砥部焼は徐々に広まっていきました。
砥部焼の最大の特徴は、やや厚手の白磁に描かれる「呉須(ごす)」と呼ばれる藍色の手書きの図案です。この独特の風合いが、全国的な知名度はそれほど高くないものの、多くの愛好家から支持されています。特に他の磁器と比べて頑丈で重量感があり、ひびや欠けが入りにくいため、日常使いの器として高い評価を受けています。
その頑丈さから「喧嘩器(けんかうつわ)」という別名もあり、夫婦喧嘩の際に投げつけても割れないというユニークなエピソードも伝えられています。現在でも、讃岐うどんの器としても多く用いられるなど、実用性と美しさを兼ね備えた陶磁器として親しまれています。
砥部町出身の大森研一監督が手掛けた映画『瀬戸内海賊物語』において、砥部焼は重要なシーンで登場します。この映画を通じて、砥部焼はさらに広く知られるようになりました。地元の誇りでもある砥部焼が映画の中で取り上げられることで、地域の伝統工芸が再び注目されるきっかけとなりました。
嘉永元年(1848年)には、砥部焼の生産技術を大きく進化させた「トンバリ」と呼ばれるレンガ造の窯が導入されました。これにより、砥部焼の品質はさらに向上し、量産が可能となりました。
明治期に入ると、廃藩置県により各地の工芸技術者の行き来が活発化し、砥部にも瀬戸や唐津、京都などの先進地の技術がもたらされました。この技術革新により砥部焼の生産が増加し、松前(現在の伊予郡松前町)からの唐津船を利用して全国へと販路を広げました。また、郡中港(現在の伊予市の伊予港)から輸出商品として出荷されることもありました。
1976年(昭和51年)12月15日には、砥部焼は通商産業省(現・経済産業省)から伝統的工芸品に指定されました。これは、焼き物としては6番目の指定であり、砥部焼の歴史と技術が公式に認められたことを意味します。これにより、砥部焼はさらに広く知られることとなり、国内外からも高い評価を得るようになりました。
今日では、独立して窯を開く職人や、女性作家が増えるなど、砥部焼は新たな時代を迎えています。2005年(平成17年)には、愛媛県指定無形文化財にも認定され、技術保持者として酒井芳美(雅号・芳人、砥部町五本松)が認定されました。彼らの努力と創意工夫により、砥部焼は伝統を守りながらも現代のニーズに応え続けています。
今後も砥部焼は、その堅牢さと美しさを兼ね備えた日用工芸品として、多くの人々に愛され続けることでしょう。伝統を守りながらも、新しい挑戦を続ける砥部焼の未来に、ますますの発展が期待されます。