来島海峡は、瀬戸内海中部に位置し、愛媛県今治市とその沖にある大島を隔てる海峡です。この海峡は西に位置する斎灘(いつきなだ)と東に位置する燧灘(ひうちなだ)を隔てる重要な水域であり、日本三大急潮の一つに数えられています。急流が特徴で、鳴門海峡や関門海峡と並んで、航行の難所としても知られています。
来島海峡は、今治市と大島の間に位置し、小島(おしま)や馬島、中渡島などの島々によって、来島ノ瀬戸、西水道、中水道、東水道の4つの狭水道に分けられています。潮の流れは時に10ノットに達し、この急潮のために古くから「一に来島、二に鳴門、三と下って馬関瀬戸」と唄われるほど、船舶にとって危険な海域とされています。
来島海峡一帯は瀬戸内海国立公園に指定されており、周辺には美しい景勝地が点在しています。今治市にある糸山公園や、大島の亀老山(きろうさん)山頂の展望台から望む来島海峡の風景は特に有名です。亀老山からの眺望は四国八十八景の57番に選定されており、夕景は観光写真としても多くの人々に親しまれています。また、来島海峡急流観潮船からの景色も四国八十八景の56番に選ばれ、海峡の美しさを堪能できるスポットとして人気があります。
来島海峡には、大島・馬島間をつなぐ来島海峡第1大橋、第2大橋、馬島・今治間をつなぐ第3大橋からなる3連の吊り橋、来島海峡大橋が架けられています。この橋は3連箱桁形式の吊橋として世界初であり、西瀬戸自動車道(通称:瀬戸内しまなみ海道)の一部を構成しています。橋の全長は第1〜第3大橋を合わせて4,105mにも及びます。
橋には自転車や歩行者用の道が併設されており、海峡を眺めながら徒歩で渡ることもできます。さらに、自転車や徒歩での通行は無料で、時折ウォークイベントも開催されています。自動二輪車(有料)も通行可能であり、通勤や日常の移動手段として利用する人も多く見られます。また、来島海峡大橋は夜間のライトアップも行われ、観光名所として多くの人々に親しまれています。
来島海峡は潮流が速く、見通しが悪い地形であることから、船舶の航行には特別な規則が設けられています。海上交通安全法第20条に基づき、「来島海峡航路」が設定されており、船舶の航行方法が細かく定められています。春季には霧が発生しやすく、馬島周辺では視界が50m以下になることもあるため、特に注意が必要です。
来島海峡では、潮流の流れに応じて通航する水道を変更する「順中逆西(じゅんちゅうぎゃくせい)」という特殊な航法が取られています。これは、船が潮流に乗って航行する場合(順潮)には中水道を、潮流に逆らって航行する場合(逆潮)には西水道を通るという規則です。潮流が北向きの場合は右側通行、南向きの場合は左側通行が採用されており、1日にほぼ4回通行方向が切り替わります。このような航法を採用している場所は、世界でも来島海峡だけです。
来島海峡の安全な航行を確保するために、来島海峡海上交通センターではレーダーによる航行状況の常時監視が行われています。さらに、大浜、津島、来島大角鼻、来島長瀬ノ鼻の4つの潮流信号所が設置されており、潮流の向きや流速などの情報を提供しています。これにより、船舶が安全に航行できるよう支援されています。
来島海峡で最初に設けられた中渡島潮流信号所は、1909年(明治42年)に業務を開始しました。この信号所は、関門海峡の潮流信号所とともに、長い歴史を持つ施設でしたが、2012年(平成24年)に廃止され、現在は中渡島灯台としてその役割を引き継いでいます。
来島海峡は、潮流の速さや特殊な航行ルールのため、座礁や衝突といった海難事故が多発する海域です。統計によると、1996年から2000年の4年間で衝突事故が14件、座礁が3件発生しており、これらの事故の9割が夜間に発生しています。特に、順中逆西の航法が採用されている時間帯では、通行方向の切り替えにより他船と交錯することが多く、衝突事故の発生が懸念されています。
しかし、来島海峡海上交通センター(通称:来島マーチス)が1998年に稼働を開始して以来、事故件数は減少傾向にあり、現在では3分の1程度にまで減少しています。来島海峡は強制水先区に指定されており、総トン数1万トン以上の船舶は水先人の搭乗が義務付けられていますが、これ以下の船舶は見張り人員が少ないことが事故の要因の一つとされています。
来島海峡は、急潮が特徴的な日本三大急潮の一つであり、瀬戸内海における重要な海峡です。自然の美しさと厳しさが同居するこの海域は、観光地としても多くの人々に親しまれていますが、その一方で航行の難所としての側面も持ち合わせています。来島海峡を訪れる際には、その美しい景色を楽しみながら、海の安全にも思いを馳せることが大切です。