仙遊寺は、愛媛県今治市玉川町別所に位置し、高野山真言宗に属する由緒ある寺院です。四国八十八箇所霊場の第五十八番札所として、巡礼者にとっても重要な場所となっています。標高312メートルの作礼山(されいざん)の中腹にあり、周囲の自然美とともに、心を落ち着ける場所として親しまれています。本尊は千手観世音菩薩で、その慈悲深い姿が信仰を集めています。
仙遊寺の歴史は古く、天智天皇の勅願により、伊予の大守であった越智守興(おちもりおき)によって建立されました。伝承によれば、本尊である千手観世音菩薩は、海から現れた竜女が一刀三礼して彫ったものであると言われています。この「作礼山」の名称も、この出来事に由来しています。
また、40年間にわたり仙遊寺の伽藍を整備した阿坊仙人という僧が、養老2年(718年)に雲と遊ぶように姿を消したという伝説があり、これが「仙遊寺」という名称の由来となっています。
その後、弘法大師(空海)もこの地を訪れ、荒廃していた伽藍を修復し、病に苦しむ人々を救済するために井戸を掘ったとされています。江戸時代に一度荒廃しましたが、明治初期に宥蓮(ゆうれん)上人が再興し、現在の姿へと整えられました。
仙遊寺の本堂は、平安時代後期に作られた高さ6尺(約1.8メートル)の千手観音立像が安置されています。この本尊は、京都国立博物館にて修復された後、平成16年(2004年)から公開されています。大師堂には、弘法大師像が安置されており、巡礼者はその姿を拝観することができます。
境内には「龍燈桜」の伝説が残っており、旧暦7月9日には竜燈が境内にある桜の枝にかかったと言われています。現在、この伝説を伝える碑が境内に立っています。
鐘楼はかつて境内の中央にありましたが、2016年に改装されて現在の位置に移動されました。また、境内には八十八の舟形石仏が修行大師石像を取り囲み、その周囲にはお砂踏み場が設置されています。参拝者はここで修行大師を囲む石仏に触れることができます。
仙遊寺には宿坊があり、参拝者が滞在しながら心身を清めることができます。天然温泉と精進料理が楽しめるほか、毎年1月の第2日曜日には「厄飛ばし柴燈大護摩」が行われ、多くの人々が参加します。また、8月9日の直近日曜日には「四万六千日大法会」という夏祭りが開催され、賑わいを見せます。
仙遊寺の宿坊「創心舎」は、全12室、定員50名で予約制です。ここでは、静寂な環境の中で心を清め、深い安らぎを感じることができます。
仙遊寺の背後には、天智天皇ゆかりの五輪塔が立っています。この五輪塔は今治市の有形文化財に指定されており、歴史的価値が高いものです。また、作礼山から望む犬塚池の風景は、今治市の名勝に指定されており、その美しい景観は訪れる人々の心を癒します。
仙遊寺へは、四国旅客鉄道(JR四国)予讃線の今治駅から7.0 kmの距離に位置しています。バスを利用する場合は、せとうちバスで「大須木」停留所で下車し、そこから約3.5 kmの道のりです。自家用車で訪れる場合は、愛媛県道155号線を利用し、近くまでアクセスが可能です。境内には駐車場があり、普通車30台、大型車4台が駐車可能です。
仙遊寺の周辺には、かつて栄福寺と仙遊寺を兼務していた住職に仕えていた黒犬の伝説が残っています。この黒犬は鐘の音で寺を行き来していましたが、ある時、同時に鐘の音が鳴りどちらに行くべきか迷い、池に身を投げてしまいました。この池は「犬塚池」と呼ばれ、2023年には犬塚が境内に移設されました。
仙遊寺下休憩所から国分寺へ向かう途中にある急坂は「五郎兵衛坂」と呼ばれています。この坂には、魚が獲れなくなったと怒った漁師五郎兵衛が太鼓を切り裂き、その後この坂で転んで命を落としたという悲しい逸話が伝わっています。
仙遊寺は、歴史的な背景と美しい自然、そして信仰の場としての役割を果たしている場所です。巡礼者や観光客にとって、心身の安らぎを得られる場所であり、また地域の文化と歴史を学ぶ貴重な場所でもあります。ぜひ訪れて、その魅力を感じ取ってください。