泰山寺は、愛媛県今治市小泉に位置する真言宗の寺院で、四国八十八箇所霊場の第五十六番札所として知られています。寺の正式名称は金輪山 勅王院といい、本尊には地蔵菩薩が安置されています。巡礼者や観光客にとって重要な場所であり、長い歴史とともに多くの人々に信仰されてきました。
泰山寺の創建は、弘仁6年（815年）に遡ります。伝説によると、弘法大師（空海）がこの地を訪れた際、梅雨期に蒼社川が氾濫しており、村人たちは悪霊の祟りだと考えていました。弘法大師は村人と共に堤防を築き、河原で土砂加持の秘法を七座にわたって行いました。その満願の日、空中に延命地蔵菩薩を感得し、治水が成就したと伝えられています。その後、弘法大師はこの地に不老松を植え、感得した地蔵菩薩像を刻み、金輪山の山頂に堂宇を建てて本尊として安置しました。
寺の名前である「泰山寺」は、延命地蔵経に記されている「女人泰産」に由来するとされています。一方で、道教の五岳の一つである「東岳泰山」にも由来するともいわれ、泰山寺の名称には深い意味が込められています。
天長元年（824年）には、淳和天皇の勅願所として七堂伽藍を備え、10坊を有する大規模な寺院となりました。しかし、その後数度にわたる兵火により寺は衰退し、空海が植えた不老松のある山麓の現在の場所に移築されました。今日では、当時の規模をうかがい知ることはできませんが、泰山寺の歴史的背景と空海の逸話は人々の心に深く残っています。
現在の本堂は安政元年（1854年）に再建されたものです。落ち着いた佇まいで、歴史を感じさせる建物です。
昭和60年（1985年）に落慶された大師堂では、弘法大師の像を拝観することができます。巡礼者にとって、ここで祈りを捧げることは大切な行事の一つです。
明治14年（1881年）に建立された鐘楼は、今治城内の太鼓楼の古材を用いて再建されたもので、独特の趣を持っています。
仁王門はなく、代わりに本堂と客殿の間の廊下に仁王像が安置されています。その威厳ある姿は、訪れる人々を圧倒します。
境内には、弘法大師が手植えしたとされる不老松の切り株が祀られています。この松は「不忘松」と呼ばれ、足腰に御利益があるとされています。現在は三代目の松が育っており、その成長を見守ることができます。
境内には他にも、不動明王石像、役の行者石像、理源大師石像、如意輪観音石像など、多くの石像が点在し、訪れる人々に神聖な雰囲気を与えています。また、弁財天祠は小さな池の中にあり、参拝者の注目を集めています。
泰山寺には宿坊があり、季節限定（3〜5月、9〜11月）の営業で、定員80名の収容が可能です。巡礼者や観光客がゆっくりと過ごせる場所を提供しています。
駐車場は普通車30台、大型車4台を収容でき、駐車料金は普通車200円です。車で訪れる際にも便利です。
鉄道では、四国旅客鉄道（JR四国）の予讃線・今治駅から約2.5 kmの距離にあります。バスでは、今治港や今治駅からせとうちバス鈍川温泉行き、または神子森行きに乗車し、「小泉」バス停で下車、そこから約0.7 kmの距離です。道路では、国道196号線から約0.6 kmの地点に位置し、西瀬戸自動車道（しまなみ海道）今治ICからは約1.3 kmです。
泰山寺の東側には、石段を登った中腹に三島神社があります。さらに登ると、かつて泰山寺があった金輪山の山頂に到達しますが、現在は何も残っていません。歴史の足跡を感じながら、周辺を散策することもできます。
泰山寺の近くには、養老年間に行基が開基したと伝えられる龍泉寺があります。行基は自ら不動明王を刻み、天聖院と称しました。今治藩主藤堂高虎の祈願所となった歴史があり、現在の本堂は1912年に滝川村から移転され、龍泉寺と名を改められました。本尊は十一面観世音菩薩で、仏堂正面には鏝絵（こてえ）の十一面観音が掲げられています。
四国八十八箇所霊場の札所巡りをする際、泰山寺の前には第五十五番札所の南光坊（約3.0 km）、次の札所には第五十七番札所の栄福寺（約3.1 km）があります。巡礼の道中に、ぜひ訪れてみてください。
泰山寺は、空海が創建した歴史深い寺院であり、四国八十八箇所霊場の中でも重要な札所の一つです。美しい景観と歴史的な建造物が調和するこの寺院は、巡礼者や観光客にとって心を落ち着ける場所です。愛媛県今治市を訪れる際には、ぜひ泰山寺を訪れ、その魅力を感じてみてください。