延命寺は、愛媛県四国中央市土居町土居に位置する、真言宗御室派準別格本山の由緒ある寺院です。摩尼山、玲光院(れいこういん)とも称され、本尊には延命地蔵菩薩が祀られています。この寺院は、四国別格二十霊場の十二番札所、伊予六地蔵霊場の五番札所としても知られ、霊場巡りの巡礼者に親しまれています。また、通称「いざり松」(誓いの松)や「千枚通し本坊」としても名高く、長い歴史と共に信仰の対象となっています。
延命寺の本尊である延命地蔵菩薩は、人々の長寿や健康、病気平癒を祈念する存在です。本尊の真言は「おん かかかびさんまえい そわか」であり、信仰を集めています。また、寺の御詠歌は「千代かけて 誓の松の ほとりこそ なほありがたき 法の道かな」と謳われており、この詠歌に込められた信仰の深さを感じることができます。
延命寺の創建は奈良時代に遡ります。この寺院は、四国を巡錫(じゅんしゃく)中の高僧・行基によって開創されたと伝えられています。当時、行基は四国各地を巡り、多くの人々に仏教の教えを広める活動を行っていました。その一環として、延命寺が建立されたのです。行基がこの地を選んだ背景には、豊かな自然と土地の人々の信仰があったとされています。
平安時代前期、弘法大師として知られる空海がこの地を訪れ、松の木を植えたという伝説が伝わっています。その後、空海は巡錫の途中、植えた松の木の下で足の不自由な人を目にしました。空海は、この人を助けるために「千枚通し霊符」を創札し、その霊符を水に浮かべて飲ませると、奇跡的に全快したと言われています。この出来事に感動したその人物は、空海より得度を受け、法忍(ほうにん)と名乗って、延命寺で千枚通しの霊符を継承していきました。
この「千枚通しの霊符」は、現在も延命寺で授与されています。霊符を朝夕に祈念しながら飲むことで、病気平癒や安産の御利益があるとされています。多くの参拝者がこの霊符を受け取り、家族や自身の健康を祈願しています。
延命寺の本堂には、秘仏として本尊が祀られています。秘仏とは、一般の参拝者に対して公開されることが少ない仏像のことを指しますが、その存在は多くの信仰者にとって特別な意味を持っています。本堂を訪れることで、静かな空間で祈りを捧げることができます。
境内には、大師堂があり、その中には弘法大師の像が祀られています。この大師堂の特徴は、建物内に入り、大師像を直接拝顔できる点です。また、大師堂の床下には、江戸時代に延命寺を中興した僧侶、明清大和尚の墓石と、入定行(にゅうじょうぎょう:修行者が入定と呼ばれる死の状態に入る修行)のための竪穴(たてあな)が存在します。歴史的な人物と共に、深い信仰が息づく場所となっています。
空海が植えたとされる松の木は、「土居のいざり松」として長い間信仰を集めていました。この松は、明治時代にはその枝が東西30メートル、南北20メートルにも広がり、まるで傘のように人々を守っていたと伝えられています。しかし、1968年(昭和43年)末に枯死してしまいました。現在では、松の幹だけが残されていますが、その姿は往時の大きな松を偲ばせ、多くの参拝者が訪れています。松の跡地には、9基の句碑が立っており、歴史と共に詠まれた句が後世に伝わっています。
延命寺の境内には、鐘楼や庫裡(くり:寺の台所)もあります。また、無料駐車場が整備されており、車で訪れる方にも便利な環境が整っています。
延命寺は、JR四国の予讃線「伊予土居駅」から徒歩約11分の場所にあります。駅からの距離は0.7kmであり、歩いても無理のない範囲です。鉄道を利用する巡礼者や観光客にとって、比較的アクセスしやすい寺院です。
また、せとうちバスの「新居浜営業所〜川之江営業所線」を利用し、「入野」バス停で下車すると、徒歩約4分で到着します。バスでのアクセスも便利で、地元の交通機関を利用することで、快適に延命寺を訪れることができます。
車で訪れる場合、国道11号の「入野交差点」から約0.2kmの場所にあります。道のりもわかりやすく、ドライブがてら参拝に訪れるのも良いでしょう。駐車場が無料で利用できるため、車での訪問がしやすいのも魅力です。
延命寺は、歴史と伝説に彩られた愛媛県四国中央市の重要な寺院です。行基や空海によって築かれたその信仰の歴史は、今日に至るまで多くの人々に受け継がれています。特に「いざり松」や「千枚通しの霊符」といった信仰の対象は、訪れる人々に健康や長寿の御利益を与え、霊場としての重要な役割を果たしています。交通アクセスも良好であり、鉄道やバス、車を利用して気軽に訪れることができる延命寺は、訪れる価値のある場所です。