瓶ヶ森は、四国山地西部の石鎚山脈に位置する標高1,897mの山であり、日本三百名山および四国百名山の一つとして知られています。愛媛県では石鎚山、笹ヶ峰に次ぐ第三の高峰で、四国全体でも二ノ森に次いで5番目の高さを誇り、西日本でも八経ヶ岳に次いで7位の山です。
「瓶ヶ森」という名称は、山頂西側の湧水がたまる「瓶壺(かめつぼ)」という地形に由来しており、瓶ヶ森を含む石鎚山脈一帯は石鎚国定公園に指定されています。
瓶ヶ森には「女山(めやま)」と「男山(おやま)」の二つの山頂があります。女山山頂には蔵王権現、男山山頂には石土古権現の祠が祀られており、古くから信仰の対象とされてきました。山頂からは西側に石鎚山、北側には瀬戸内海、南側には四国山地の重なり合う山々と土佐湾を望むことができる絶景の場所です。
特に「氷見二千石原(ひみにせんごくばら)」と呼ばれる広大な笹原が広がるエリアは、江戸時代に二千石の石高を誇った西条氷見の広さを由来としてその名がつけられたとされています。この氷見二千石原は、ウラジロモミの白骨林が点在しており、その壮大な景観が訪れる人々を魅了します。
瓶ヶ森の山岳信仰は、斉明天皇の時代に遡ります。当時、役小角が龍王山で修行を行い、阿弥陀三尊を感得したという伝承があります。その後、天平9年(737年)には行基によって石土山が開山され、さらに天平勝宝5年(753年)には芳元によって熊野権現が勧請されました。この地域の信仰は、現在も愛媛県今治市の石土宗総本山石中寺に受け継がれており、毎年7月には「石土山入峰大会」が行われ、多くの信者が瓶ヶ森や子持権現山に登拝しています。
瓶ヶ森への登山ルートは多様で、最も手軽な方法は「瓶ヶ森林道」沿いからのアプローチです。このルートでは、大駐車場(標高1,670m)から男山山頂まで約40分、さらに稜線を30分進むと女山山頂に到達します。また、氷見二千石原を経由するルートもあり、このルートでは約40分で女山山頂に直接向かうことができます。
一方、古くからの登山道として、西条市の石鎚登山ロープウェイ近くの「西之川(標高432m)」から「鳥越岩」を経由するルートや、「東之川(標高548m)」から登るルートも存在します。しかし、これらのルートは現在廃道となっており、登山者は旧道を迂回する必要があります。なお、「瓶壺」へは、瓶ヶ森林道駐車場から西之川方向へ約1kmの距離に位置しています。
男山と女山の両山頂には、それぞれ祠が建てられており、古くからの信仰の名残を感じさせます。男山山頂の祠は石土信仰の中心地として、女山山頂の祠は蔵王権現を祀る場所として、多くの登山者や信仰者に敬意を持って訪れられています。瓶ヶ森からは、西条市をはじめとした広大な景色が一望でき、四国山地や伊予富士、さらには石鎚山までも見渡すことができます。
冬になると、瓶ヶ森の風景は一変します。雪に覆われた男山や女山は、厳しい自然の美しさを際立たせ、特に北側から望む雪景色は、まるで別世界のような印象を与えます。この時期の登山は難易度が上がるものの、雪山ならではの静寂と美しさを求めて訪れる登山者も少なくありません。
瓶ヶ森の南東に位置する「子持権現山(標高1,677m)」もまた、瓶ヶ森と並んで信仰の対象となってきた山です。山頂には「子持権現」としての祠があり、古くから登拝の場所として知られています。瓶ヶ森と同様に、美しい景観と信仰の歴史を持つ山として、多くの登山者に親しまれています。