栴檀寺は、愛媛県西条市に位置する高野山真言宗の寺院で、正式には「世田山 医王院 栴檀寺」と称します。通称は「世田薬師」として親しまれています。本尊は薬師如来立像で、新四国曼荼羅霊場の第36番札所として多くの参拝者が訪れる霊場です。
栴檀寺の歴史は奈良時代まで遡ります。神亀元年(724年)、行基が四国を巡錫している際、世田山の上に薬師如来の姿を見つけ、その姿を栴檀の木に刻んだことが寺院の始まりとされています。寺名もこの伝承に由来し、寺の本尊である薬師如来立像は高さ9尺(約2.7メートル)の秘仏です。最盛期には十二坊の末寺を持ち、山岳仏教の拠点として栄えました。
中世には、世田山の山上に世田城が築かれ、太平記にもその名が記されています。1342年(興国2年)、南朝方の大館氏明が新田義貞の甥として城主を務め、伊予の南朝勢力を守るため奮戦しましたが、北朝方の細川頼春率いる大軍に攻められ、17人の勇士と共に切腹したと伝えられています。室町時代には、細川氏と河野氏の争いの舞台ともなり、1364年と1479年の二度にわたる激戦が行われました。
昭和2年(1927年)、標高280メートルに位置する本堂を奥之院とし、大師堂と三宝荒神堂を山麓に移設して本坊を構えました。その後、令和3年(2021年)には山麓に金堂を新築し、本尊である薬師三尊と十二神将を遷座しました。令和6年(2024年)には鐘楼堂の落慶と共に麓への移転事業が完了し、創建1300年の大法会が行われました。旧本堂への参拝は、麓の本坊から約1キロメートル、40分程度の遊歩道を通じて訪れることができます。
栴檀寺では、江戸時代から続く「きうり加持」が夏の土用の丑の日に行われます。この行事は薬師如来に無病息災を祈念するもので、参拝者が自らの体の悪い部分をキュウリに見立てて撫で、そのキュウリを埋めることで病気平癒を願う風習です。
2021年5月19日に落慶した金堂には、旧本堂から遷座された薬師三尊と十二神将が祀られています。堂内中央に楕円形の祭壇が置かれ、薬師如来立像と日光・月光菩薩立像が周囲を取り囲む十二神将と共に安置されています。拝観日は寺に問い合わせて確認する必要があります。
大師堂には、弘法大師像が祀られており、参拝者は大師像を拝顔できます。
三宝荒神堂は、火難除けや家内安全、商売繁盛を祈念する場所として知られています。
平成5年(1993年)に完成した薬壷の塔は、広場の中央に位置し、大柴燈護摩の会場として使用されます。塔の背後には、薬師如来石仏があり、その前には胡瓜を埋めるための穴が設けられています。
奥之院にあった鐘楼堂は、令和6年に新たに再建されました。戦時中に供出された釣鐘も新調され、参拝者に鐘をついて祈願する場を提供しています。
栴檀寺の境内には、像高約4メートルの岩に刻まれた不動明王像があり、訪れる人々の心を圧倒します。この像は、悪霊退散や家内安全、交通安全を祈願するために建立されました。
本坊エリアからは、標高339メートルの世田山の山頂へと続く遊歩道が整備されています。山頂までは約1キロメートルで、登山の途中には多くの自然景観や歴史的なスポットを楽しむことができます。山頂からは西条市や今治市の美しい風景を一望することができ、瀬戸内海の島々を見渡す絶景が広がります。
世田山は「えひめの自然100選」に選ばれており、その豊かな自然環境は多くの人々を魅了しています。瀬戸内海国立公園の一部としても指定されており、ハイキングや森林浴を楽しむことができます。
栴檀寺は、新四国曼荼羅霊場の第36番札所であり、前後の札所として第35番の実報寺と第37番の法華寺があります。霊場巡りの際には、これらの寺院を訪れることで、より一層の霊験を得ることができるでしょう。
栴檀寺へは、西条市中心部から車で約30分、公共交通機関を利用する場合は、西条駅からバスでアクセスできます。駐車場も完備されており、参拝者にとって便利な環境が整えられています。
参拝の際には、寺院の規則や礼儀を守り、静かに祈りを捧げましょう。栴檀寺は、古くからの歴史と豊かな自然に囲まれた心癒される場所です。訪れることで、心の安らぎと新たな霊験を感じることができるでしょう。