うちぬきは、愛媛県西条市の旧西条市一帯に豊富に存在する自噴井(じふんせい)で知られる地下水です。この地域の自噴井は、ポンプを使わずに地下から自然に水が湧き出すという希少な現象で、昭和60年にはその質の高さが評価され「名水百選」にも選ばれています。
西条市は四国最高峰である石鎚山系のふもとに位置し、その自然の恩恵として豊富な地下水が古くから湧き出しています。この地下水は「うちぬき」と呼ばれ、市内においては約2,000箇所もの自噴井が確認されており、1日の湧出量は90,000立方メートルに達します。この地下水は非常に浅い場所からも湧き出ることが特徴で、地中にパイプを挿すだけで水が溢れ出るほどです。
西条市はその豊かな地下水資源によって「水の都」としても知られており、市民はこのうちぬきの水を生活用水として日常的に利用しています。さらに、西条市の地下水は平成7年・8年の全国利き水大会で2年連続「日本一おいしい水」に選ばれ、その美味しさが全国的にも認められました。
うちぬきが特に多く見られるのは、旧西条市の市街地から海岸方向にかけての地域です。加茂川の左岸から河口にかけての一帯や、石鎚山駅の北方に広がる自噴地帯は、自然の地下水が溢れ出る場所として多くの人々に親しまれています。この地域では、自噴しない場合でも電動式井戸ポンプを用いることで、簡単に良質な水を得ることができるため、多くの家庭で日常的に利用されています。
通常、海に近づくと地下水に塩分が混じる傾向がありますが、西条市には例外も存在します。その一つが市役所から北方約2kmに位置する「弘法水」です。この湧水はもともと干潮時にのみ海底から湧き出る真水でしたが、現在は埋め立てられた陸地から湧き出し、海に近いにもかかわらず良質な真水が得られる珍しい場所となっています。
西条市の市街地では地下水が非常に豊富であるため、生活用水や産業用水を十分に賄うことができます。このため、中心市街地においては公共の上水道が整備されない「計画外区域」とされています。これは全国的にも非常に珍しいケースであり、西条市がいかに水に恵まれた地域であるかが伺えます。
1991年に旧西条市が行った「西条市生活文化史」の調査によれば、当時の市内19,000戸のうち、約75%の世帯がうちぬきの恩恵を受けていたことが明らかになっています。現在でも多くの市民がこの豊かな地下水を利用し続けていますが、一部地域では地下水に塩分が混じるため、市の水道局が上水道供給を行っています。
西条市では1995年の阪神・淡路大震災を契機に、地震などの地殻変動が地下水資源に与える影響について懸念が高まりました。地震によって湧水が止まってしまう危険性を考慮し、市は単独予算で地下水の流れや地質についての調査を行い、湧水資源の維持に努めています。こうした取り組みによって、将来的にも安定した水供給が確保できるよう努力が続けられています。
西条市では、2009年の渇水時に地下水位が低下し、一部地域で自噴が止まるという影響が見られました。この出来事は、いかに自然の恩恵に依存しているかを再認識させるとともに、地下水の管理と保全の重要性を示すものとなりました。
西条市はその豊かな水資源を基盤としたまちづくりが評価され、2011年には「水と芸術文化でまちづくりと人づくり」として、国土交通省の「手づくり郷土賞」を受賞しています。これは、地下水を生かした地域活性化の取り組みや、文化・芸術との融合を図った活動が認められた結果です。
西条市内には多くの自噴地が存在し、観光客も訪れる名所となっています。以下に代表的な自噴地をご紹介します。
伊予西条駅の駅前広場には、うちぬきを利用した噴水があります。ここでは誰でも自由に新鮮な地下水を味わうことができ、観光客にも人気のスポットです。
市内には「うちぬき広場」と呼ばれる場所があり、市民や観光客が気軽に湧水を楽しめる施設が整備されています。清らかな水が絶えず湧き出ており、四季折々の風景とともに訪れる人々を癒しています。
海岸近くに位置する「弘法水」は、その珍しい真水の湧出地として特に有名です。古くからこの地で親しまれてきた湧水であり、現在でも多くの人が訪れています。
うちぬきは、西条市に根付く豊かな地下水の象徴であり、地域の生活や文化を支える重要な資源です。石鎚山からの恵みを享受しつつ、市民の生活を潤し続けているこの自噴井は、今後もその価値を守りながら、多くの人々に親しまれていくことでしょう。